「洗えるシルク加工」についての考察。洗えるシルク問答 vol.2 絹糸屋が解説。

洗えるシルクにするための「加工」とは

おはようさん(養蚕)どす。京都西陣絹糸問屋・中忠商店のWEB番頭でございます。

さて、本日は通常のシルク製品を「洗えるシルク」「ウォッシャブルシルク」にするための加工方法について解説していきます。

そもそも「洗えるシルク」って何?という方は、こちらの記事(「洗えるシルク」とは何か?)をご笑覧ください。

1、「洗えるシルク」にするための加工ってどういうこと?
2、どのような加工方法があるの?代表的な加工方法とは?
3、加工前と加工後で、シルクの質は変わらないの?
4、終わりに。どちらが良いかを決めるのは・・・

などのご質問にお答えしながら、京都西陣絹糸屋のWEB番頭・TES(繊維製品品質管理士)が解説いたします。

1:洗えるシルクにするための「加工」って何?

物理的・化学的に変化させます

通常のシルクを「洗えるシルク=※商業的な意味での洗えるシルク」にするためには、シルク本来のプレーンな状態では実現が難しいため、何らかの物理的もしくは化学的な「加工」を施さなければなりません

※商業的意味での「洗えるシルク」=「ご家庭での洗濯方法でも洗濯が可能で、洗濯前と洗濯後で外観・形状・風合いの変化の程度が少ないもの」。(前掲記事参照:「洗えるシルク」とは何か?

代表的な加工方法としては、

A、糸や生地、製品の段階でしっかり洗っておき、再度洗濯しても、それ以上縮んだり変化したりしないようにする(事前にしっかり洗っておく)。

B、繊維表面が絡まりあう原因となる毛羽を、糸や生地の段階で物理的・化学的に取り除く(水流もしくは薬品)。

C、糸や生地の段階で、樹脂などでコーティングする(表面を保護するとともに、毛羽立ちを予防してダメージが出ないようにする)。

D、生地や製品の表面をあらかじめ軽く傷つけておく(洗濯前後の外観が変わらないようにする)。

E、絹以外のもの(洗濯耐久性の強い素材)を混ぜて、ダメージ発生を予防・緩和する(※これは「加工」というより「製織・編立」の工夫とも言えます)。

などの方法があります。

A:事前にしっかり洗っておく加工

洗濯後に変化しないようにするためには、事前にしっかり洗濯しておく
当たり前のようですが、シンプルかつ有効な加工方法になります。

通常、シルク製品(繊維製品全般にほぼ共通)ができるまでの過程は、糸の染色・整理→織り・編み→生地の染色・整理→裁断縫製、のような流れになります。

この中の「染色・整理」の工程で一定程度の水洗は施されるのですが、「洗える」加工では、この水洗回数を増やす・強化することで、何度も家庭洗濯を実施したのと同じ効果が得られます。すでに何度も洗濯したものなので、ご家庭の洗濯後も形状・外観の変化が少なくなります

メリット:洗濯後収縮率が良くなる=洗濯しても寸法が変化しにくくなる
デメリット:未加工のものと比較すると、風合いが固く、マットな生地感になる

B:毛羽を取り除く・少なくする加工

糸の段階や生地の段階で、絹繊維表面の毛羽をできるだけ落としておく加工方法です。

具体的な加工方法としましては、水流・薬品などを使用して、繊維表面の毛羽を落とす・まとめるなどの加工になります。

洗濯中にシルクの毛羽が絡まりあって、繊維同士が引っ張り合うことにより発生する型崩れやフェルト化、寸法収縮などへの対策となります。

メリット:洗濯中の生地損傷が回避できる。洗濯後の収縮率が改善する
デメリット:未加工のものと比較すると、糸や生地のふんわり感がなく、薄くて平たい生地感になる

C:樹脂などでコーティングする加工

糸や生地の表面を、樹脂などでコーティングする加工方法で、少し前に流行した古い加工方法です。

使用されなくなった事情としては、加工薬剤の環境への影響が大きいことや、肌に当たる部分が樹脂などの別成分(=シルクが肌に当たらない)になってしまうことなどから、メーカー・消費者の双方から敬遠されたことが背景になります。

繊維表面をコーティングすることで、摩擦に弱いシルク繊維を保護し、糸や生地の形状変化を防ぎます。

メリット:繊維自体が強くなり、摩擦による生地損傷を回避できる。形状が安定する=洗濯しても縮んだり、伸びたりしにくくなる。
デメリット肌に直接あたる面が樹脂などのコーティング原料になる。コーティングに使用する素材や薬剤によっては、繊維表面の吸湿性が低下する可能性がある

D:表面をあらかじめ軽く傷つけておく加工

生地の表面を、あらかじめ少し毛羽立たせたり強めに水洗して軽いダメージを与えておく加工方法です。

具体的な加工方法としては、デニムのダメージ加工のようなもので、ピーチ加工サンドウォッシュ加工などがあります。いずれも生地表面の繊維を軽く起毛させるような手法のため、シルクサテンのような光沢感のある生地へ加工した場合、光沢感が減少することになります。

その代わり、生地のタッチが柔らかくなる、洗濯前と洗濯後で、生地の風合いが変化しにくくなる、などのメリットも生まれます。

メリット:洗濯前と洗濯後での外観変化・風合い変化が少なくなる
デメリット:未加工のものと比べると、外観の光沢感や均一性がなくなる

E:絹以外のものを混ぜてつくる

こちらは、シルクの糸や生地自体を加工するという内容でないのですが、製法的によく見られる工夫になります。

具体的な方法としては、ナイロン・ポリエステル・加工済みレーヨン・綿などシルク以外の洗濯耐久性の高い素材を、シルクよりも多く入れた生地を作り、「洗えるシルク」として商品化する方法になります。

例)
洗えるシルクのお布団(ポリエステル56%、再生繊維(リヨセル)34%、シルク10%)
洗えるシルクナイロンワッシャー(混用率非表示)
洗えるシルクトップス(シルク60%・レーヨン40%)

3:加工前と加工後で、シルクの質は変わらないの?

加工する前と後で、シルクの質や風合いは変わらないのか?

これについては、それぞれの加工法や加工時の工夫などにより、

変化がほとんどないもの。(水洗の強化などの加工の場合)
さわったり、着用したりすれば差が分かるもの。(毛羽除去、樹脂コーティングなどの加工の場合)
外観の変化、見た目で分かるもの。(表面加工などの加工の場合)

など、変化の度合いに差が出ます。

ただ、プレーンな未加工の状態のシルクと比べますと、何らかの加工をしているものは、その「質」も変化しているということは間違いないかと思われます。その「質」の変化が、風合いや着用感、機能性にまで影響を及ぼすかどうかまでは、個別の加工品を実証(購入、体感、試験など)してみないと断定はできません

4:おわりに。どちらが良いかを決めるのは・・・

ここまで、「洗えるシルク」にするための加工方法について解説しました。

「洗えるシルク」と表記されているものでも、それぞれ加工方法や製法上の工夫が異なります。どれが良くてどれが悪い、そもそも「洗える」必要があるかどうかなど、加工の是非については、その商品を買った人(購入者)がお決めになることです

単に「洗えるシルク」という漠然とした言葉のイメージだけでなく、「洗える」の意味「洗える」ようにするための加工背景まで理解した上で、最良の選択をされることを願っております。

中村忠三郎商店.京都西陣,京町家本店
中村忠三郎商店|京都西陣|京町家本店

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