日本のシルク、中国のシルク。どちらが優れているの? 京都西陣の絹糸屋が解説します!

おはようさん(養蚕)どす。
京都西陣の絹糸問屋・中忠商店のWEB番頭でございます。
さて、今回は「日本のシルク」と「中国のシルク」についてのお話です。
「国産シルクだから高品質」
「日本製だから安心」
「中国製だから安価」
シルク製品を探していると、このような言葉を目にすることがあります。
もちろん、原料の産地や製造国は、商品を選ぶ際に大切な情報です。
では、国産シルクと中国産シルクには、どのような違いがあるのでしょうか。
先に結論をお伝えすると、シルクの品質は、原料の産地や製造国だけで決まるものではありません。生糸の品質、製糸・加工の技術、そして最終製品の使い心地は、それぞれ分けて考える必要があります。
今回は、中国と日本のシルク産業が歩んできた歴史や、それぞれの製造技術、現在の産業の特徴などをご紹介しながら、絹糸屋の立場で考えてみたいと思います。
【この記事でわかること】
・シルクの品質は、産地だけで判断できるの?
・中国と日本、それぞれのものづくりの強みは?
・海外産原料を使った「日本製」は、どう考えればよいの?
そもそも「良いシルク」とは何でしょうか?
まず、最初にお伝えしたいことがあります。
「日本産」と「中国産」のどちらが優れているか、という問いに、一つの正解はありません。
シルクと一口に言っても、繭、生糸、絹紡糸、織物、編物、染色生地、最終製品など、さまざまな段階があります。
例えば、生糸であれば、糸の太さの均一性、節の少なさ、強度、伸度などが品質を判断する指標になります。
しかし、肌着や靴下であれば、肌ざわり、伸縮性、着用感、耐久性など、別の評価が必要です。
高い等級の生糸を使用したからといって、必ずしも着心地の良い肌着になるわけではありません。
つまり、原料の品質と、最終製品の品質は、分けて考える必要があります。
以前、当ブログでも「シルクの6Aは最高品質ではありません!」という記事で、この点について詳しく解説しました。
今回も同じく、産地という一つの情報だけで品質を判断するのではなく、どのような技術によって、どのような製品が作られているのかを考えてみたいと思います。
中国のシルク産業。世界を支える圧倒的な総合力

シルクの歴史は、中国から始まりました。
シルクの歴史は非常に古く、養蚕の起源は約5,000年前の中国にさかのぼるとされています。
その技術は長い年月をかけて各地へ伝わり、日本にも伝来しました。
つまり、中国はシルクの歴史において、原点ともいえる国です。
現在の中国は、世界最大級のシルク生産国であり、養蚕から製糸、撚糸、製織、編立、染色、縫製、製品販売まで、幅広い産業基盤を持っています。
中国の強みとして、まず思い浮かぶのは、その圧倒的な生産規模ではないでしょうか。
しかし、中国の本当の強さは、単に大量に生産できることではありません。
大きな生産規模が、高い品質を生み出す。
例えば、生糸の品質を考えてみましょう。
大量の繭を生産できるということは、それだけ多くの原料の中から、目的に適したものを選別できるということでもあります。
品質の良い原料を選び、必要な数量を確保し、安定して生産する。
これは、製造業にとって非常に大きな強みです。
また、中国では自動繰糸設備や品質管理技術の高度化が進み、均一性に優れた高品質な生糸を生産する技術が発展しています。
もちろん、すべての中国産生糸が高品質というわけではありません。
しかし、高い品質の生糸を安定して大量に供給できることは、現在の中国の大きな競争力といえるでしょう。
製糸から最終製品まで。技術の幅広さも中国の強みです。
中国のシルク産業は、糸の製造だけで成り立っているわけではありません。
製織、編立、精練、染色、プリント、縫製など、それぞれの分野で高度な技術を持つ企業が数多く存在します。
高級な織物や衣料品から、日常使いの肌着、靴下、寝具、雑貨まで、多種多様な製品の製造に対応しています。
「中国製は安い」というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、価格競争力も中国の強みの一つです。
しかし現在では、優れた設備と技術によって、非常に高品質なシルク製品を作る工場もあります。
品質が高いものも、価格を抑えたものも、用途に合わせて幅広く作ることができる。
この総合的な製造能力が、中国の大きな魅力だと思います。
国を挙げて、産業そのものを進化させてきました。
中国のシルク産業を考えるうえで、もう一つ欠かせないのが産業政策です。
例えば、2006年に始まった「東桑西移(とうそうせいい)」政策。
経済発展の進む東部地域から、養蚕に適した中西部地域へ生産拠点を移し、養蚕基地の整備や関連企業の育成などを進めてきました。
さらに、中国政府が策定した2021年から2025年の産業発展計画では、養蚕の省力化、製糸設備の自動化、デジタル技術の導入、製品開発、ブランド育成など、産業全体の高度化が掲げられています。
もちろん、政策に掲げられた目標がすべて実現したという意味ではありません。
それでも注目したいのは、原料を作るところから、最終製品を販売するところまで、一つの産業として発展させようとしていることです。
長い歴史と豊富な原料、高度な技術、大きな生産基盤、そして未来に向けた投資。
中国のシルク産業の強さは、こうした多くの要素によって支えられているのです。
日本のシルク産業。世界から学び、技術を発展させてきた歴史
さて、一方の日本はどうでしょうか。
日本のシルク産業というと、西陣織や丹後ちりめんなど、伝統的な絹織物を思い浮かべる方も多いかもしれません。
もちろん、こうした織物文化は日本の大切な財産です。
しかし、日本のシルク産業の優れたところは、伝統的な織物技術だけではありません。
かつて日本は、世界のシルク産業をリードしていました。

日本の養蚕・製糸技術は、古くは中国などから伝わった技術を基礎として発展してきました。
そして明治時代になると、西洋の機械製糸技術を積極的に導入し、日本独自の改良を加えながら、生産性と品質の向上に取り組みました。
1872年に操業を開始した富岡製糸場は、その象徴的な存在です。
その後も養蚕技術や製糸設備の改良が進み、1906年には、日本は中国を抜いて世界最大の生糸輸出国となりました。
さらに、蚕の一代雑種の実用化や、自動繰糸機の開発など、世界の蚕糸産業に影響を与える技術革新が生まれています。
ここで注目していただきたいのは、日本は海外から学んだ技術を取り入れ、それを改良することで、世界に通用する産業を築いてきたということです。
日本のシルク産業も、決して昔からの製造方法を守るだけで発展してきたわけではありません。
シルクを科学し、新しい可能性を生み出す。
日本の優れた技術の一つに、蚕の品種改良や、シルクそのものの研究開発があります。
例えば、農研機構では、蚕の遺伝子研究や品種改良を通じて、超極細シルクや染色性に優れたシルクなど、新しい特性を持つ素材の研究を進めています。
また、シルクの主成分であるタンパク質の特性を利用し、繊維だけでなく、医療や化粧品などへの応用も研究されています。
これらの研究成果のすべてが、一般的な製品として広く普及しているわけではありません。
しかし、シルクの性質を科学的に解明し、これまでにない素材や用途を生み出そうとする取り組みは、日本が培ってきた技術力を示すものです。
日本のシルク技術は、伝統を受け継ぐだけでなく、新しいシルクを生み出す方向にも発展しているのです。
糸を使いこなし、製品の価値を作り込む技術。
そして、もう一つ注目したいのが、シルクをさまざまな製品へと仕上げる技術です。
例えば、同じシルクの糸を使ったとしても、織物にするのか、編物にするのかで、出来上がる生地の特性は大きく変わります。
さらに、糸の撚り方、編地や織物の設計、精練、染色、仕上げの条件によっても、風合いや使い心地は変化します。
シルクの靴下であれば、肌ざわりだけでなく、伸縮性やフィット感、耐久性も必要です。
肌着であれば、着用時の快適さや、お手入れのしやすさも大切になります。
こうした用途に応じて、素材の選択から加工方法、製品仕様までを組み合わせる技術は、日本の繊維産業が長年培ってきたものです。
日本には、織物だけでなく、編機や編成技術、染色、縫製などの分野にも優れた技術が蓄積されています。
もちろん、中国にも同様に優れた技術を持つ工場があります。
しかし、日本の技術を評価するのであれば、伝統的な織物だけでなく、シルクをさまざまな生活用品に応用し、製品としての価値を高めてきた技術にも目を向けたいところです。
日本のシルク産業が抱える課題
ここまで、日本の優れた技術をご紹介してきました。
しかし、残念ながら、日本のシルク産業が置かれている状況は、決して楽観できるものではありません。
かつて世界有数の生糸生産国であった日本ですが、現在では国内の養蚕・製糸の生産規模は大きく縮小しています。
また、製織、編立、染色、縫製などの分野でも、工場の減少や技術者の高齢化、後継者不足などが課題となっています。
いくら優れた技術が残っていても、それを活用する生産設備や人材が失われれば、製品を作り続けることは難しくなります。
ここで考えたいのは、優れた技術を持っていることと、産業全体として競争力があることは、必ずしも同じではないということです。
日本には優れた研究者や技術者、製造企業が存在します。
しかし、それぞれの技術を結びつけ、新しい製品や産業の成長につなげる仕組みについては、まだ多くの課題があるように思います。
伝統技術を守り、次の世代へ引き継ぐことは大切です。
その一方で、新しい設備や技術を導入し、これからも必要とされる産業へと発展させることも、同じように重要ではないでしょうか。
国産シルクと中国産シルクの違い。原料・製糸・加工技術を比較します。
ここまでの内容を、いったん整理してみましょう。
下の表は、どちらが優れているかの順位をつけたものではありません。それぞれの産業が培ってきた特徴を、同じ視点から整理したものです。
| 比較項目 | 中国の特徴 | 日本の特徴 |
|---|---|---|
| 養蚕・原料 | 豊富な生産量、多様な原料の選択肢、供給体制 | 生産量は小規模。品種改良や特殊な蚕の研究実績 |
| 製糸 | 自動化、高品質な生糸の大量・安定生産 | 自動繰糸技術の発展に貢献した歴史、特殊製糸の技術 |
| 加工・製品化 | 製織・編立・染色・縫製まで幅広い生産基盤 | 特定用途に応じた加工技術や、製品仕様の作り込み |
| 研究開発 | 製造設備の高度化、省力化、産業応用の推進 | 蚕の育種、シルクの特性研究、新素材への応用 |
| 産業基盤 | 養蚕から製品販売まで、広い産業集積と政策的な育成 | 専門技術が残る一方、担い手や生産基盤の縮小が課題 |
※スマートフォンでは、表を左右にスクロールしてご覧いただけます。
※上記は両国の産業全体に見られる主な特徴を整理したもので、すべての企業・製品に当てはまるものではありません。
中国の総合的な生産力も、日本が培ってきた技術も、互いを否定するものではありません。それぞれの強みを理解して生かすことで、ものづくりの選択肢は広がります。
海外の原料を使った「日本製」は、どう考えればよいのでしょうか?

ここまでのお話を踏まえて、もう一つ考えてみたいことがあります。
それは、海外産の原料を使用して、日本国内で製造されたシルク製品についてです。
例えば、中国産の優れた絹糸を使用し、日本国内で編立や製織、染色、縫製などを行って製品に仕上げる。
あるいは、日本で製品を企画・設計し、中国の優れた工場で製造する。
こうしたものづくりは、現在の繊維産業では決して珍しいことではありません。
ここで重要なのは、原料の産地、加工された場所、最終製品の品質を、それぞれ分けて考えることです。
中国産の原料を使用したからといって、日本の加工技術の価値が下がるわけではありません。
また、日本で企画した製品を中国で製造したからといって、その製品の品質が必ずしも低くなるわけでもありません。
優れた原料を選び、優れた技術を組み合わせ、使用する目的に合った製品に仕上げること。
これは、生産国にかかわらず、ものづくりの基本です。
どこで作られたかを正しく伝えることは大切ですが、それだけを理由に品質の優劣を決めてしまうのは、少しもったいないように思います。
国産シルクと中国産シルク。よくある3つの疑問
Q. 中国産シルクは品質が悪い?
A. 中国産だから品質が悪い、ということはありません。
中国には、高品質な生糸を安定して生産する技術と生産基盤があります。一方で、中国産にも日本産にも、品質や用途の異なるさまざまな原料・製品があります。産地だけで判断するのではなく、糸の特性や加工方法、最終製品としての品質を確認することが大切です。
Q. 日本製シルク商品の原料(繭・絹糸)は日本産?
A. 必ずしもそうではありません。
中国など海外で生産された絹糸を使用し、日本で製品に仕上げる例もあります。原料の産地と、製品の原産国表示は別の事柄です。製品の原産国は、実際にどのような工程をどこで行ったかによって判断されます。原料産地を知りたい場合は、商品説明の記載の確認や販売者への問い合わせが必要です。
Q. 6Aシルクなら最高品質?
A. 「6A」は生糸の格付けであり、最終製品の品質を保証するものではありません。
生糸の欠点の少なさなどを評価する指標と、肌着の着心地や生地の風合いなどの評価は別です。詳しくは、「シルクの『6A』は『最高』品質ではありません!」の記事もご覧ください。
おわりに。シルクの良さに、国境はありません。
中国のシルク産業には、長い歴史と豊かな生産基盤、高度な製造技術、そして産業全体を発展させていく総合力があります。
一方、日本には、海外から学んだ技術を独自に発展させ、科学的な研究や、さまざまな用途への応用を通じて、シルクの可能性を広げてきた歴史があります。
どちらにも優れた技術があり、どちらにも課題があります。
「中国は量、日本は質」といった単純な比較では、それぞれの産業が持つ本当の価値を説明することはできません。
そして、国産シルクの文化や技術を大切にすることと、海外産シルクの優秀さを認めることは、決して矛盾するものではありません。
日本のものづくりの歴史を振り返れば、海外から優れた技術を学び、取り入れ、発展させてきたことが分かります。
これからも、国や地域の違いを超えて、優れた原料や技術が生かされることで、より良いシルク製品が生まれていくことでしょう。
大切なのは、どこの国で作られたかということだけではなく、どのような素材を使い、どのような技術で、何のために作られた製品なのか。
シルクの良さに、国境はありません。
私どもも、産地や製法の違いを正しく理解し、それぞれの良さをお伝えできるよう、これからも学び続けてまいりたいと思います。
お蚕さんからの自然の贈り物に、心からの感謝をこめて。
参考資料・関連ページ
- 農研機構|養蚕業の発展と新たなカイコ産業の創出
- 農林水産省|蚕糸業の歴史
- 消費者庁|商品の原産国に関する不当な表示
- 中国工業情報化部|蚕桑シルク産業高品質発展行動計画(2021〜2025年)
- 中国商務部|東桑西移政策
- よむしるく|シルクの「6A」は「最高」品質ではありません!



