シルクの「6A」は、「最高」品質ではありません!実態について絹糸屋が解説します。

生糸格付方法
シルクの”6A”などの格付け方法について、絹糸屋の番頭(繊維製品品質管理士)が解説します。

おはようさん(養蚕)どす。京都西陣絹糸問屋・中忠商店のWEB番頭でございます。

さて、本日はシルクの「格付け」「品質基準」についてのお話しです。

シルクの品質比較として、インターネット上でよく目にするのが「6A」「5A」などの「格付け」表示ですが、その実態をご存じの方は少ないようです。

今回は、この「格付け」の基準となる検査方法とその意義(格付けの本来の目的)「品質の良いシルクとは何か?」について京都西陣絹糸屋の番頭・TES(繊維製品品質管理士)が解説いたします。

「6A」などの表示・格付けは、生糸(絹糸)に対する評価です。

中国の生糸検定書、実物です。

結論から言えば、「6A」の糸とは「生糸」の中でも欠点が少なく、主に力織機(機械式の製織機)の経糸などで使用しても、糸切れやムラが出ず生産効率の良い「糸」のことを指します。光沢感や肌ざわりなどの感応的な評価ではなく物理的特性を測定した結果、欠点の少ない「生糸」のことを指します。


もともとこの糸の評価検定は、日本の生糸検査所が、生糸の品質表示の基準化(輸出品の品質表示の適正化)を図るために、「生糸の検査・格付け方法」を制定・規格化し、シルク糸の中でも「生糸」に限って格付けを行ったのが始まりです(参照:「生糸の日本農林規格現在は廃止)」)。1896年(明治29年)に、横浜と神戸に国営の生糸検査所ができ、輸出の前に検定を受けることが義務付けられました。現在では中国・ブラジルの検査所で 同基準が準用・継承されています。

※ちなみに、現在、日本国内では「生糸検査所」は存在しません。「6A」などの検定結果がついているシルク糸(生糸に限る)は「中国」もしくは「ブラジル」原産のシルク糸であり、検定結果をPRしているシルク商品に使用されている糸も、「中国」もしくは「ブラジル」原産のシルク糸(生糸)である、と考えて間違いありません。

なお、この検定・格付け表示は、あくまで「生糸(精練前のフィラメントシルクのこと※)」に対する評価・格付け表示になりますので、それ以外の絹糸(精練後の生糸や絹紡糸や絹紬糸などの紡績絹糸、また織り上がった生地や最終製品の評価には使用されません(生糸以外を検定・格付けする機関はありません)。

※フィラメントシルクほかシルクの糸種詳細については、こちらの記事をご参照ください。(「シルクの呼び名(愛称)知ってるつもり!?」

欠点の少ない順に「6A」「5A」「4A」「3A」「2A」「A」の6段階で格付けし、それぞれの表示が許可されます。この検査は「欠点を探して減点する検査」のため、欠点の少ない「6A」「5A」の生糸は全体の10%程度になります。

6Aクラスのシルク生地のみを使用しています。」「6Aはトップメゾンしか使用しないランクです。」「6Aのシルク糸を使用した特別なマスクです。」など、シルクの生地や最終製品の優劣をつけるかのように使用されている例も散見されますが、知識不足・理解不足による「誤表示」です。 惑わされないようにご注意ください。

表示・格付けは、そもそも何のために始まったの?

生糸検定,そもそも
なぜ「格付け表示」が必要だったの?

かつて日本では、生糸は主力輸出産品のひとつでした。海外に輸出される際に、それぞれの産地や生産者が独自に「うちの生糸は良い糸ですよ」と勝手にランク表示(綾部特級、福知山1級品など)してしまうと、独自基準が乱立し、その糸本来の価値を正しく評価できなくなってしまいます。

価格に見合わない品質のものと、本当に良い品質もの(※)が不統一のラベル表示による玉石混交となってしまうと、輸出産品としての「日本の生糸」全体の信用力が落ち、価格が下落するとになります。ひいては、輸出量の減少・国の信用力低下などの国家的ダメージにもつながります。(※ここでの「良い(何を良いとするか)」の定義は、最終項目で記述します。)

そこで、現在の農林水産省にあたる政府組織は、輸出港周辺や養蚕地・製糸地を中心として、各地に「生糸の品質検査所」を設置し、あわせて「生糸の検査・格付け方法」を確定・規格化して (参照:「生糸の日本農林規格(現在は廃止)」) 、表示ラベルの統一化を図ることにしました。

これが「生糸の格付け・等級表示」の始まりと目的です。

検査の対象は?「何」を評価(格付け)しているの?

未精練,生糸,セリシン
精練前の生糸の拡大図です。

ここまでの解説の通り、この検査・格付けは「生糸(きいと)」の日本農林規格(現在は海外検査所で準用)になります。検査対象とする「生糸」とは、「家蚕(カイコガ科の蚕をいう。)の繭を煮熟し、得られた繭糸を集束抱合わせて1本の糸条としたもので、加撚、精練等の加工を施していないものをいう。」とされています。(規格規定文による定義。一般的な絹業界の定義もほぼ同じです。)

とういうことは、この定義による「生糸」以外の絹糸(家蚕でない野蚕系:ヤママユガ科などの蚕の糸全般や、絹紡糸・特絹糸・絹紬糸などの紡績系絹糸全般)や、精練済み・加工済みの絹糸はもちろんのこと、製織・編立後の生地(サテン・ニットなど)や最終製品(パジャマや手袋など)、原料としての繭(cocoon)などはすべて、この検査・格付けとは無関係ということになります。

語弊を恐れず例えますと、同じ牛肉でも、ステーキ用の肉は格付け(検定)するが、しゃぶしゃぶ用の薄切り肉やミンチ、ホルモンは格付けしない、というような、偏った制度になっています。

つまり、「生糸」以外はこの検査・格付けの「対象外」で、「このパジャマに使用しているシルクの【生地は6A→×】です」「このマスクには【6Aランクの繭→×】からとれた絹糸を使用しています」などの表記は、理解不足・不当表示による誤りです。「格付け」はあくまで「生糸(精練前)」の適正な品質表示のみにフォーカスしています。

どうやって検査・評価しているの?(等級はA~6Aまで)

検定方法の解説書(古書)です。

さて、話が少し横道にそれましたが、「生糸(きいと)」の具体的な検査方法については同規格に厳密に制定されており、

・性状:色や光沢、手触りはどうか。
・形状:糸の不揃い、乱れ、虫食い、汚れなど外観はどうか。
・水分:糸の中にどのくらいの水分があるか。
・平均繊度:糸の太さが平均的かどうか。
・繊維偏差:糸が太くなったり細くなったりしていないか。
・繊度最大偏差:糸の太い細いの差が大きすぎないかどうか。
・節:糸の節がどのくらいあるか。
・再繰切断:糸を繰り直したときにどの程度切断するか。
・伸度:糸がどの程度伸びるか。

の各項目を規定の方法で検査・測定します。(現在は廃止。参考資料が必要な方にはデータを提供します。)

この検査・測定の結果、規定の点数に達したものの順(相対評価ではなく絶対評価)に「6A」「5A」「4A」「3A」「2A」「A」の6段階で格付けし、それぞれの表示が許可されます。この検査は「欠点を探して減点する検査」のため、欠点の少ない「6A」「5A」の生糸は全体の10%ぐらいしか認定されません。

これが、生糸の規格・検査・格付けのあらましになります。解説は以上です。

次項目以降は、絹糸屋のWEB番頭・TES(繊維品質管理士)の余談となりますので、ご興味・お時間のある方はご笑覧いただけますと幸いです。

「6A」の生糸は、本当に「良い」絹糸なのか??

良い,悪い
何が「良い」かは相対的。大切なのは目的に合っているかどうか。

では本当に、この格付け順に「良い生糸(きいと)」の順番となるのでしょうか?

もう一歩踏み込んで言えば、何が「良い」生糸なのでしょうか?この検査で格付けが高いということは、どういうことを意味するのでしょうか?

この規格に基づく検査・格付けで「良い(評価値の高い)生糸」というのは、「糸に節やムラが少なく、適度な強度と伸度があり、形状が均質な加工のしやすい生糸」ということを意味します。製織・編立などの加工のしやすい生糸というのは、加工業者からの需要も高いため、おのずと価格が高くなります。

ただ、「品質が均一で需要(価格)が高い」ということ=本当に「良い糸」なのでしょうか?

京都西陣絹糸商の中忠商店では、「品質が均一で需要(価格)が高い糸」は、あくまで「良い糸(原材料)のひとつ」と考えています。糸ムラや節があり加工しにくい糸であっても、熟練の技術者にかかれば見事な織物・編み生地に仕上がることもありますし、その逆もあります。

また、そもそもこの検査の「対象外」となっている様々な絹糸にもそれぞれの個性・適性があり、「生糸」を絶対の優位品とした偏った立場には反対です。

重ねて語弊を恐れず例えますと、同じ「じゃがいも」でも、フライドポテトに向いているものもあれば、ポテトサラダに向いているもの、おでんやカレーなどの煮込みに向いているもの、薄切りのポテトチップスにむいているものなど、用途や目的に応じて、最適な「じゃがいも」は異なるはずです。

おわりに

すべての絹(シルク)は平等です。値段の高低や優劣を競うものではなく、使用する目的(最終製品の使用目的)に応じて、「最適の品質」のものを判断して用いるべきです。

お蚕さんからの自然の贈り物に、心からの感謝をこめて。

中村忠三郎商店.京町家本店
中村忠三郎商店|京都西陣|京町家本店

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