蚕種について 通俗養蚕鑑 第四章 蚕種 絹糸屋の現代語訳

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通俗養蚕鑑 原書

おはようさん(養蚕)どす。京都西陣絹糸問屋・中忠商店のWEB番頭でございます。

さて、この記事では、明治32年(1899年)刊行「通俗養蚕鑑」から、第四章「蚕種」の内容を抜粋して、各蚕種をご紹介いたします。

当店:中村忠三郎商店所蔵の古書となりますが、デジタル資産・記録として、現代語訳いたします。

なお、一部に現代の社会通念や今日の人権意識に照らして不当・不適切な表現や語句、差別的表現が見られる部分がありますが、原文意図を尊重し、原文ニュアンスのままで採用いたします。

目次

1:蚕種の種類 序文

・赤熟種(せきじゅくしゅ)

・青熟(あおびき)

・小石丸(こいしまる)

・角又(つのまた)

・又昔(またむかし)

・鬼縮(おにちぢみ)

・姫蚕(ひめかいこ)

・青白(せいはく)

・純白種(じゅんぱくしゅ)

・中国種(ちゅうごくしゅ)

・金黄種(きんこうしゅ)

・終わりに

1:蚕種の種類 序文

蚕の種類は、近年の養蚕業の拡張に伴いその数が増加しており、日本の在来種だけでも数百種にまで増えている。

しかし、同種異名のものも多く、真に異種のものであったとしても、自然の性質による分類ではなく、人間が分類した種別と評価すべきものである。

その差異としては、蚕の体の大小、まだら模様が出るまでが早いか遅いか、繭の大小および形状、繭にしわがあるかどうかなどである。

家産の原産地は中国の南部で、もともとは野生の昆虫だったものであるが、長い時をかけて人間が飼育し、日本やヨーロッパ諸国にも広がり、風土による変化や人為的な交配の結果、現在のような多くの品種が生まれるに至っている。

その祖先は、桑の木に生息する野蚕であって、中国人の手によって養われ始めた昔は、夏蚕で一化性(一年に一回、成虫を得る昆虫)であった。毎年毎年、一年を通じて継続飼育していくことで春に孵化する蚕が生まれ、また、秋に孵化する蚕なども生まれて、四化性・六化性となり、さらに前記のような特徴の異なるものも多く生まれてきた。それらを特徴ごとに別々に飼育することで、今日のような多くの蚕種を選別産出してきた。

従って、蚕の種類と呼ばれるものは全て、野蚕の変化したものに過ぎない。養蚕によって生まれた春蚕は、本来の野蚕に近い夏蚕に比べて、体質は虚弱で飼育が困難ながら、繭質は優等である。

また秋蚕は、夏蚕の蚕種の中から越年した卵を、冷所である風穴や高山の山頂付近などに貯蔵しておいて、孵化を遅らせることで得ることができる。

また夏蚕と春蚕との交配をすることで雑種を得、一年に二回繭を得ることができるようになる。

春蚕の中でも著名な蚕種のいくつかを、以下に列記する。

・赤熟種(せきじゅくしゅ)

赤熟(せきじゅく)

古くから日本で飼育されてきた品種で、天和年間(1681年~1683年ごろ)に福島県の伊達郡掛田村(現在の伊達市)で産出したものと言われている。

明治20年(1887年)ごろには、各地方で盛んに飼育されていた。

繭の形が大きく、吐く糸の量も多い品種で、

・蚕の成長に日数がかかること
・食べる桑の葉の量が多いこと
・その割に、病気などに弱い体質であること

などから、飼育自体は困難な品種であった。

その繭の最大のものは、一升の入れ物に200粒前後しか入らない大きさで、取れる糸も太く、繊度でいうと5デニール以上のものもあった。

従って、繊細な細い生糸を作るには適さず、また、病気に抵抗する力が弱いことなどから、最近では(明治32年:1899年出版ごろ)ようやく飼育されないようになりつつある。

ただ、この種の蚕のなかには細い糸が取れるものもあり、この細い糸を吐く蚕のみを選んで飼育すれば、良い蚕種が得られるのぞみもある。

眠期(蚕が脱皮を行う期間)や老熟期(繭を吐くようになる少し前)には、体が赤味を帯びてくることから「赤熟(せきじゅく)」の名前が付けられた。

つけ足しておくと、糸の細い太いは、蚕の糸を吐く器官の大小に関係しており、器官の大小は、蚕の体自体の大小にともなっているようである。

だから、体があまり大きくならず、やや長細くなっている蚕を選べば、雌雄に関係ないとは言わないが、おおむね細い生糸を得ることができる。

・青熟(あおびき)

青熟(あおびき)

福島県伊達郡(現在の伊達市)で、嘉永年間(1848年~1855年ごろ)「赤熟」の中から選別産出された品種といわれている。

赤熟に比べ繭はやや小さく、糸量および食べる桑の葉の量も少ない。老熟期(繭を作る直前)には青味を帯びてくることからこの名がついた。

糸は細く色つやが美しい。繭の大小により、大・中・小の区別があって、大きさは一定ではないものの、一升の入れ物に260粒入るくらいが通常である。

飼育量は少なく、飼育自体は困難な傾向があるが、赤熟に比べると飼育は容易である。ただし、毎年ごとに選定に注意しなければ、赤味を帯びるものもの混じってくる。

・小石丸(こいしまる)

小石丸(こいしまる)

繭の形が円形でくびれ目が深い(俵型)。小さく堅い繭で、小石のようなのでこの名がついた

最近では少しずつ改良されて、長く大きい形の繭のものも流行している。糸は細く、糸量はほどほど。飼育するのが容易で、食べる桑の葉もほどほどのため、現在賞賛されている種類の一つである。

信州地方(長野県あたり)から選別産出された品種で、一升の入れ物に280粒くらいが標準であるが、最も小さいものを集めると、一升の入れ物で350粒以上入るようなものもある。

・角又(つのまた)

角又(つのまた)

またの名を「神代(じんだい)」と言われ、繭質が善美であるのみならず、食べる桑の量が少なく飼育がしやすい。最近のものの中では、大いに賞賛されている種類である。

繭は小さく中央がわずかにくびれ目があるのみで、両端がとがっていて鰌(どじょう)の口のような形をしている。俗に、鰌口などと呼んでいるところもある。

外見はいびつだが品質は優良で、一升の入れ物に300粒くらい入る大きさが標準である。夏蚕や四化蚕にも角又と称する品種もある。

・又昔(またむかし)

又昔(またむかし)

この種の原産地は福島県伊達郡(現在の伊達市)と言われている。

昔は家蚕の繭の形も、中国種のようにくびれ目がなかったのだが、その後くびれ目ができるようになったことを憂い、同郡元中瀬村の人が注意して選別産出したもので、昔の形に帰らせたいとの思いから「復古」と命名していた種類を、最近では「又昔」ということが多くなった。

繭としては、大・中・小の大きさのものがある。細長い形をしており、取れる糸もまた細く色つやも美しく、飼育がしやすい。

一升の入れ物に270粒~280粒入るものが標準の大きさである。

・鬼縮(おにちぢみ)

鬼縮(おにちぢみ)

この種は、繭の縮み・しわが大きいため、この名前がついた。

繭はとても大きいが繊維自体は細く、糸量が多いため、蚕自体の発育も遅い。

群馬県北甘楽郡の佐藤國太郎氏の選別産出と言われている。

・姫蚕(ひめかいこ)

姫蚕(ひめかいこ)

この呼び名で呼ばれるものには数種類あり、おおむね繭が大きく円形で、鞠のような形をしている。

繭層は薄いが、蚕自体は病気に強いため、養蚕初心者は好んでこの種を飼育する。

糸質、解舒(繭から糸をほどくこと、糸離れ)はあまり良くないものが多い。蚕は全身真っ白でまだら模様がない。

・青白(せいはく)

青白(せいはく)

黄色系(実際には緑色)の繭を作る品種で、その色合いには濃淡がいろいろある。

明治14年~15年(1881年~1882年)のころまでは各地で飼育が流行したが、最近では飼育する人は稀である。

・純白種(じゅんぱくしゅ)

純白(じゅんぱく)

またの名を「黄雪(きゆき)」とも呼ばれる品種で、近年選別産出されたものである。

その卵は産出当時のまま変色せず越年し、春の孵化の時期になるまで色素を生じないものである。

繭の形は豊かに大きく、食べる桑の量が多いわりに体質は虚弱である。実に珍しい変種である。(赤熟の変種

・中国種(ちゅうごくしゅ)

中国種(ちゅうごくしゅ)

明治初年(1868年ごろ)に開拓使が飼育していたが、その種のものは現在は絶えており、最近飼育されているものは明治21年(1889年)に輸入された「清白(せいはく)」の名前の付いたものである。

繭の形は両端がややとがっており、中央にくびれがなく小型である。一升の入れ物に、200粒以上入る。

繭から糸がほどきやすく、糸も細い。繭が小さいため、取れる糸量も少ないが、早く老熟するため、食べる桑の葉の量も少なくて済む。

ただ、飼育が困難で、熟練の技術で飼育しないとたびたび失敗する。

このほか、近年数種類の輸入があり、様々に飼育されている。

・金黄種(きんこうしゅ)

金黄種(きんこうしゅ)

フランスから輸入された黄色繭の一つで、繭の形が豊かに大きく、くびれ目が浅い。

発育が遅いため、食べる桑の量も多く飼育が困難だが、糸が細く糸量も多く、特に糸質が均一なのは秀逸で、この点は他の種が遠く及ばない美点である。

・終わりに

生糸を繰糸するにあたり、原料に供される繭の品質が雑駁であった場合、甚だしく不便不利が生じるということは世間一般に認知されていることである。

ゆえに、養蚕家は良好な種類を常に探索し、一地方では統一した蚕種を飼育することに努めなくてはならない

いたずらに迷って新規の品種を選出するようなことは、かえって混乱を生じさせることになる。

要するに、糸が細く、糸量が多く伸張性に富み、糸ムラや節が少なく、解舒がしやすい繭を選定して飼育することが肝要である。

体質の強い蚕を2~3種類選択して、少なくとも同一町内ではそれ以外のものを飼育することはやめて、同一家内では毎年同じ蚕種のものを単一飼育して、技術の向上を図るべきである

中村忠三郎商店.京町家本店
京都西陣・中村忠三郎商店|京町家本店